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最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)129号 判決

上告人

谷口信義

被上告人

右代表者法務大臣

佐藤恵

被上告人

神奈川県

右代表者知事

長州一二

被上告人

神奈川県座間渉外労務管理事務所長 綾部慶一

右三名指定代理人

兼行邦夫

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行コ)第八八号解雇無効確認等請求事件について、同裁判所が平成二年四月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

本件降格及び本件解雇を適法であるとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。また、本件の訴訟記録に照らせば、原審が所論の証拠調べをしなかった措置に違法があるということはできない。所論は違憲をもいうが、原審の認定しない事実に基づいて原判決の不当をいうか又は原審の右措置の違法を主張するものにすぎず、いずれも失当である。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎)

〈上告人の上告理由〉

第一点。 基本労務契約(以下MLCという)第二章「基本労務契約の実施(第二条a)」に拠る『MLC上の権限を更に渉外労務管理事務所長(以下所長という)に委任』する規定がある。『行政庁相互間において、権限の委任がなされ、委任行政庁が委任された権限に基づいて処分を行う場合は、委任行政庁が自己の行為としてその処分を行うのであるから、当該処分の取消を求める訴訟は、委任行政庁を被告として提訴すべき』(最高裁昭和五四年七月二〇日判決、昭和五四年(行ツ)第四六号)(行訴法第一一条一項)(時報九四三号四六頁、タイムズ三九九号一一五頁)から、本件所長は被告適格がある。

第二点。 被上告人所長は、被上告人国からMLCに関する権限の委任に基づく主体的行政機関として、上告人への不正行為の瑕疵ある行政手続は、憲法三一条に違背し、MLC解雇基準については(MLC第一一章第五条「人員整理の基準」)裁量権の濫用・踰越があり、行訴法三〇条によって、上告人の解雇は当然無効である。所長の上告人への不法行為は、地公法三二条、二九条二号に違反し、民法九〇条に明らかに牴触している。更に所長は委任されたMLC上の権利と義務の履行について、左記のMLC条項に関し、上告人に対する重大且つ明白な違法行為があった。主文第八条・人事管理・a人事措置」「(1)措置の実施」。第五章給与の管理、c低い等級への変更「(2)並びに(3)」。第二章人員整理・第一条「d勤続年数」。同第四条「整理を最少限度にする」。同第五条「人員整理の基準」。同第六条a(1)「人員整理の理由」「d人員整理通知書」。同第七条「f雇用の制限」。同第九条苦情の申立て。第一二章苦情処理手続、第二条苦情処理手続。米陸軍規則第六九〇-五号、米軍人事部通達第七二-九号。

一。 昭和四七年十二月一日以前において、訴外米軍人事部MLC従業員(以下従業員という)新藤恒一、上田喜八郎らは、所属の異なる上告人の元上司会計部次長米軍軍属から上告人を私的制裁として基地就労から排除する目的(第二次目的、即ち動機)の相談をうけ、彼らは米軍規則・米軍人事部通達等の人事措置手続に拠ることなく、口頭でうけた瑕疵ある要式行為があった。右新藤らは、この上告人に対する不正な目的を内容とする私的制裁の要請を実現すべく、事実上あり得ない職務内容を他から転用して、先づ上告人を三級職に降級処分にする(第一次目的、即ち将来廃職という口実で上告人を人員整理にかける)意図を所長に通牒共謀した((行政機関の主体による瑕疵))。所長は、この人事手続要求を要式行為とされている「文書(人事措置((降級処分))要求書、米軍様式FM一一)」によらず、寧ろ文書には適法に表示し得ない理由から、口頭で受けた((形式に関する瑕疵))。所長は、訴外労管所員給与課原令子に対して、右の人事部の要求を実行する為に、四七年一一月迄の四級職十四号俸基本給月額七八、四〇〇円を制裁措置であるMLC第五章給与の管理c条(2)・即ち従業員の「帰責」とする、三級職二八号俸(枠外)八六、一〇〇円を算定させた。因みに従業員に「無帰責」の降級措置の場合は、四級職十四号俸七八、四〇〇円をその儘変更される三級職の基本月給となる。(MLC右同章c条(3)を適用される)。所長は、上告人に対し、四七年一二月分給与支給から基本給月額八六、一〇〇円とし支給した(支給日は定例翌月一〇日である)。

右から四ヶ月を経過した(訴状にいう五五日間隠匿は正しくない)、四八年三月二七日、即ち一週間後の四月四日の人員整理発表間近になって、業務課の職務であって、職務権限外の給与課原令子が違法に作成した上告人宛「人事措置(降級処分)通知書(労管様式一〇、四八年二月一日付即日発効、要求番号五六二一号、内容は三級職二八号俸八六、一〇〇円」、但し公印も割印もなく更に上告人の住所欄は空白のまま、所長から送られて来て上告人は始めて処分を知った。所長は処分の「通知」義務を故意に怠り((手続きに関する瑕疵))がある。これら重大且つ明白な瑕疵ある行政行為は当然無効であり、処分は取消される可きである。

二。加え、上告人は四八年四月二六日と五月一六日、この他に某日の三回に及んで労管に赴き、所長に対して、MLC第一一章人員整理、第九条「勤続年数の確認と解雇留保の苦情申立て」並びに、MLC主文第八条人事管理、c「人員整理(の文中、最後段、所長による従業員の選択)」について、上告人の課内での「先任権」、第一一章第四条後段「最長期間在籍者」の事実を主張した。即ち、上告人の主張する第一一章、第五条「人員整理の基準」に明らかに違反して、一方的な指名解雇は所長の裁量権の踰越・濫用である。

亦、MLC第一二章苦情処理手続、第二条b「第二段階(2)」に違反して、所長は訴外労管所員業務課谷内祐二に対し、前掲K・ベネットの文書の結文に記述されてあるが、「MLC第三段階苦情申立書(米軍様式EJ三二八)」の支給の申出に対して拒否させて上告人の適法な申請を阻止妨害した。(上告人は当初より、米軍人事部、労管所長ら共謀して組織的な阻害の意図を感じていたので、申請等米軍様式一切を事前に入手しておいた)。因みに、この第三段階の申請の回答は、翌四九年三月三〇日に入手したが、MLC回答期日「七暦日」に対して、実に「二四九日」を徒過して、亦、離職後「八ヶ月余」を経過させた。申請以来三八一日を要して終了したが、かかる所長の上告人に加えた極めて顕著な不法行為は、裁量権の踰越・濫用であり、これに因って、行政訴訟法三〇条に準拠して、裁判所は上告人の解雇を取消す事が出来る。

第三点。被上告人労管所長によるMLCに対する脱法行為は、信義誠実則に反し、当然上告人への処分は無効である。

前掲に、K・ベネットの文書からも、上告人を制裁降級処分にした事実は明白であるが、所長は、従業員を制裁するについて「MLC第八章・従業員の行為」に準拠して、その制裁の目的、手続を最少限にして適正にとる可き法律行為の責任がある。

所長は、上告人を降級処分し指名解雇するについて、右のMLC第八章に拠る可き何らの理由もなく、故に、同章第八条「協議及び人事措置の要求」、即ち上告人を処分する原因を証明する「違反行為報告書」、「従業員の答弁書」そして「所長の意見」等規定された手続きを取る事もなく、勿論、米軍人事部に右の文書類を提出する規定も守られず、当然の帰結として此の事を米軍と神奈川県知事との交渉規定とする事も実現され得なかったのは、当初より自明の理であった。更に所長から上告人へ通知されるべき同章第一〇条「MLC制裁措置通知書」が作成されたと仮定すれば、同章の各条項を逐一適正に審査を経て始めて、四七年一二月一日以前に所長から送られて来るものである。而し右の「MLC制裁措置通知書」は事実上作成されておらず、本件上告人に対する指名解雇は、「MLC第一一章人員整理」に籍口したもので、加え、内実はMLC解雇基準(右同章五条「人員整理の基準」)に違背しており、而も、第八章の制裁規定の適用については論外である。

被上告人国からMLCの権限の委任を受けた被上告人所長は、一米軍軍属の恣意専断の私的制裁に積極的に加担し、上告人に対して先ず降級処分にしておき、これを廃職するとの口実を作って上告人を人員整理の対象者にして、而もMLCに適法な苦情処理申請の中途に於て、上告人の基地就労を排除する為、指名解雇を敢行した脱法行為である。かかる脱法行為は信義誠実則に反し、当然解雇は無効である。

第四点。 米軍規則、通達等に違反した上告人への人事措置は、法令違反である。在日米陸軍規則第六九〇-五号「六条・方針及び計畫の要件、c項」後段『この「職務内容」調査終了の前後四五日間は、…個々の職位の措置は処理しない』規則から、上告人に対する「二七日」目の降級処分の措置の処理は法令違反である。即ち、上告人に対する職務内容調査は『一九七三(昭和四八)年一月五日に実施』『翌月、二月一日付、「人事措置通知書(労管様式一〇、要求番号五六二一号」が作成され、内容は「三級職二八号俸に、即日降級処分が発効」するもので、右規則の『期間中の職位変更措置の手続停止』に違反している。

更に、同右、民間人事部通達第七二―九号「四条・手続、b項(調査準備)(1)」の後段『現行の職位を再分類する為の個別の要求は、調査前の四五日間及び九〇日間は受理されない旨、監督者に通知する』について、前項(軍規則)の記述の如く、人事部上田喜八郎は、四八年一月五日、上告人の上司部次長米軍軍属オノ・ススム(和名小野進)から、上告人を降級処分の措置をとる様要請をうけ、而もこれを受理した所長も、右通達の「期間中の人事要求の受付は不受理」の規定に反し違法である。

右通達、同条・b項(2)『監督者はMLC…従業員に正式に割り当てられた職務について、…検討し協議する。監督者は各従業員の公式の職務分担が前回の調査以来大きな変更がなされていないかどうか確認し、…第一七一二号の職務変更欄に…記入して書式を完成させる』の、上告人の長期間職務変更がなかった事実の確認が上告人の上司らによってなされている。因みに、上告人が十回近く、空席の公開募集に応じた時、上告人は、現有していた職務内容を応募様式の相当欄に記載し、この一部は、監督者の米軍軍属(部次長オノ・ススム、課長スギノ・マコト(和名杉野信)ら)による応募申請の内容の事実確認と、募集先への照会(内申)事項が記入され、その上で、彼らによって直接人事部に送られる事になっている。

公務員である被上告人所長は憲法一五条二項、地公法二九条二号、三二条に違背する事のない様、亦、MLCの全ての権限の委任をうけた善管義務者としても、前各項で陳述した如く、信義誠実則に反しない様、職務に専念すべきであった。

第五点。証拠遺脱の判決は違法である。

左記、堤出された証拠資料について、改めて原審で事実審理の上、合理的解釈によって上告人の証拠提出の趣旨・説明から真実と判断を下す可きにも拘らず、何ら判断を下す事なく、証拠遺脱の違法があった。即ち、公務員である労管給与課訴外原令子は職務について瑕疵ある人事手続を知悉しておき乍ら、上告人への制裁降級処分時に、基本給額を算出し、そのまま賃銀台帳に登録し、これによって上告人の四七年一二月分から処分後の給与の支給が始った。この後原は職務権限外の上告人宛「人事措置(降級処分)通知書(様式一〇)、四八年二月一日付即日発効、五六二一号」を作成、四ヶ月(間隠匿した)後の「三月二七日」になって上告人に送達して来た。

この事は重大且つ明白な手続上の瑕疵である。原審では、原の関与した左記の(証拠略)を遺脱して審理を怠り、判断の資に供する事なく、そのまま、原審の判決の結論に導いた事は違法である。

原審が左記書証を他の提出された証拠資料と併せて判断すれば、原審の判断の結論は、上告人に勝訴の判決がもたらされたと解する事が出来る。

一、(証拠略)。本証は原の上告人宛の六〇年四月二七日付の返事である。上告人は、六〇年二月二二日、原の勤務先平塚市江南高等学校に訪れ、応接室に於て、上告人が提示した(一審で提出されている)証拠文書の控について、左の如く証言した。(一)四七年一二月一日以前に、原は所長から上告人の(四級職十四号俸から)四七年一二月分給与から三級職に降級処分する目的で、MLC第五章「給与の管理」c項(2)「従業員に帰責する」制裁規定によって、三級職(一四年間昇給がなかった為)、枠外二八号俸八六、一〇〇円を算定した事。この後(後出)(証拠略)の如く、上告人の四七年一二月分の給与が制裁措置から三級職基本給月額八六、一〇〇円が支給された。(但し、原は、この月額の算定方法の説明は不明瞭で上告人は理解できなかった)。原は、従業員の帰責ではない場合は、右の規定から「同章、c項(3)」で、上告人の場合ならば「四級職一四号俸七八、四〇〇円をそのまゝ、三級職基本級額七八、四〇〇円である」事を確認した。

二、(証拠略)上告人の四七年一二月分給料明細袋、三級職二八号、基本給月額八六、一〇〇円。原は所長から命ぜられてMLC第五章c項(2)に基づく制裁措置として算出し、四七年一二月分から給与月額八六、一〇〇円とした。

所長による秘密裡に上告人への私的制裁処分(MLC第八章「従業員の行為、規定を経ることなく)に加担、MLC事前「通知」義務不履行、上告人への「弁明・聴問」の機会供与義務履行の放棄等、これら所長の「一連の行政手続の瑕疵、違法行為から制裁の動機である上告人の指名解雇の敢行の実行行為」を立証する為に提出された証拠書類について、原審で遺脱することなく、審理しておれば判断の結論から上告人の勝訴判決がもたらされたと解する事が出来る。

第六点、憲法七六条三項並びに、三二条違背行為。

昭和六〇年七月二六日、一審において、次回九月二四日に、原令子を証人として喚問する事に決定された。併乍、同期日に原は出廷せず裁判官は開廷直後『証人は来ていませんね。それでは、これで結審します』と、上告人の挙手異議申立てを制して『結審しました』を繰返した。今迄は、被告側は、三列九人着座していたが、当日は、指定代理人ら三名だけが最前列に着座していて(その後の席には、次回の開廷を待機していた次番の者が二人着座しており、亦当日に限って三列目の席は設置されていなかった)。他の六名は開廷前から傍聴席にいた。この事情から、原に対する証人尋問は、裁判官による法令違憲の恣意的訴訟指揮によって上告人(原告)の原証言は得られなかった。これ迄縷々述べて来た如く、本件証訟の最重要証人の証拠調が行われず直ちに結審となった。更に原審に於ても上告人(控訴人)の原の証人申請に対しても再び実現せず、これら一連の裁判官による原の証人尋問は行われず、上告人は原審に於ける挙証活動に制肘を加えられて十分な法廷証言が得られず、この結果、原審の判決の結論への影響は、上告人に敗訴の判決となった事は明らかである。憲法七六条三項が、裁判官のある可き独立の形をとっている一方で、三二条も広く公正な裁判の保障を掲げているものと解される。裁判官は外部(被上告人国ら)からの干渉(要請、付託等)、指揮命令に服さず、良心に従って独立して職権を行う事である。裁判官の良心とは、当事者が提出して審理を求めるべく証拠資料を採用するに当り、違憲する事なく職責を公正無私に徹して行使する義である。

第七点、 釈明権不行使による審理不尽の違法について

上告人は次項に述べる如く、一審に於て被告(被上告人)国らへの「求釈明書」を求められて提出したが、更に上告人は原審に於ても「求釈明書」を以って訴訟関係を明らかにする為に努めて来た。裁判所の権能として、民訴法一二七条が行使され、更に同一三一条一項二号が行使されておれば明らかに原審判決の結果は、上告人(控訴人)に勝訴の判決があったと確信する。当事者間の法律関係を明瞭にする為、事実上及び法律上に関し、被控訴人(被告)に対し立証を促す裁判所の権能である民訴法一二七条一項の規定から裁判所が釈明権を行使しておれば、訴訟の実際は多くの場合控訴人(原告)が勝訴し、若しこの行使を違法に怠れば敗訴の結果をもたらす事例に拠って、この特許状(大憲章)とも言う可き釈明権の行使の結果に基いている事は明白である。この観点から上告人(控訴人)の就中、左記の「求釈明書」中の項目について、上告人の提出した資料のうち主張事実を合理的に解釈して正当な主張として法律構成が認められ、更に、民訴法三一二条一号乃至三一四条、三一六条等控訴人(上告人)の申立てに対して、被控訴人(被上告人)らの主張、立証を尽くさせ、更に事実の真相を極める可きにも拘らず、不明確のまま請求を排斥した事は、裁判所のなす可き釈明権の行使において違法があり、原審は釈明権の行使を怠り、ひいては審理不尽の違法を犯したものである。

上告人は一審で「求釈明書」を提出し、被上告人(被告)らに、五八年八月一七日以降、三度求釈明書を提出し、一方「文書送付嘱託申立書」を二度提出した。原審に於ても重ねて、六三年九月二七日(八月一三日分と九月五日付の分)に「求釈明書」を提出した。上告人は右「求釈明書」を被上告人らに重ねて原審に平成元年四月二五日付「上申書」を提出した。併せて、八月一二日付「釈明書請求の件」を被上告人国指定代理人田中治宛郵送し、九月一二日付で原審宛「上申書」を提出した。

(一)一、上告人は、四八年四月二六日、五月一六日(他に某日)の三度労管で所長に面会を求めて、(MLC第二章・第九条)「苦情の申出」により、更に(同章第五条)「人員整理の基準」から、即ち、上告人の先任権・最長期間在籍者等の理由から解雇の撤回を求めたが、所長は、裁量権の濫用・踰越をもって、上告人の指名解雇を敢行した。原審に於て、積極的釈明権、釈明処分権を行使しておれば、所長のMLCの右の条項の一般法則に牴触している事は自明であり、これを越えて所長の裁量権の濫用・踰越が明白となり、上告人の解雇は当然無効と判断されると解される。

(二)一から五。 一米軍軍属による、部署の異なる米軍人事部に、口頭での(瑕疵ある形式行為、米軍規則、米軍人事措置要式文書に反して)、上告人に対する私的制裁を要請した。人事部上田喜八郎は、この私的要請から(已に四七年一二月一日から上告人は、三級職に処分されていた)、上告人の職務内容調査実施を立証する「職務調査書(米軍様式DA三七四)を作らず、「一九七三(四八)年一月五日付」の「人事措置要求書(USFM一一)」を「サーベイ・レポート」として違法に使用して、虚偽の調査書を労管に提出、所長はかかる「瑕疵ある人事措置要求書の手続」を知悉し乍ら、「二月五日」に収受し「二五六一号」として整理簿に登録した。原審に於て、釈明権を行使しておれば、已に前年四七年一二月一日以前に於て、上告人への処分を実行していた事から、所長と米軍人事部との共同不法行為が事実として直ちに立証出来て、原審の合理的解釈から審理判断の結果、原判決の結論は、明らかに上告人の解雇は当然無効と勝訴の判決がなされると解される。

(三)六及び七、原は所長から命じられて上告人を三級職基本給与月額を算定するに当り「MLC第五章・c項(2)」即ち「従業員の帰責」とする制裁規定を適用したとして、所長の上告人への制裁の意思と実行を証言した。原審に於て積極的な釈明権が行使されておれば、上告人に対する私的制裁(第二次目的=動機)の「指名解雇」の為に、(第一次目的として)秘密裡に降級処分を行い、名目上は「人員整理」として上告人を解雇した行政上手続上の、重大且つ明白な瑕疵が事実として判明、審理判断されて、原審判決の結論、即ち上告人の解雇無効の勝訴の判決がなされたものと解される。

(四)十二と十三、上告人が空席応募用紙に記載して来た職務内容(高速度電算機入出力情報処理の分析、判断技術)は既述した如く、上告人の米軍軍属・監督者らによって、書面で与えられた正確なものであって、「職務上の変更」はなく、被上告人国らの便宜的に借用した職務内容の記述は、「人事部通達第七二―九号」を歪曲した手続の瑕疵ある法令違反がある。因みに被上告人の用意した上告人の職務内容としたものは、上告人を降級処分する為であって、「地位協定(三五年条約七条)第一五章一項(a)」にある、IHA(諸機関労務協定従業員、即ちバーテンダー、料理人、ウェイター、PX物品販売員等の日常的単純サービス業務に属する会計事務内容を借用してきたに過ぎない。上告人は永年、一時期は顧問として米軍駐留を維持する、食糧全般、航空燃料等、軍衣服装備一式、機械器材等軍基金回転運用に関する財務会計から、海外から入力された緊急調達品の照会、搬入された不適格物資の検査報告等の作成、報告等の高度の電算機入出力情報分析能力と語学力(電話)を要求されるもので、前掲被上告人国らの用意した職務内容とは、比較は出来ない。原審に於て、審理を尽しておれば、被上告人国らの主張に真実がなく、所長の上告人に対する解雇は、原審の判決の結論として、即ち解雇無効の勝訴の判決が上告人に対して下されたと解される。

(四)十六、(イ)上告人に対する解雇は「MLC解雇基準」に違反して、一米軍軍属の要請から所長は「人員整理」に藉口した「指名制裁解雇」を敢行した。(ロ)「人員整理」をする理由としての「作業量の減少」との具体的説明と、上告人の解雇との具体的相関関係の説明はない。(ハ)軍命令五〇号は「四名」を、MLC解雇基準(先任権、在籍日数)で、削減する趣旨である。K・ベネットの文書では、「六名」を解雇したと記述してある。上告人の「人事措置」(人員整理)通知書、労管様式一〇、通知番号五番」で、田中史郎は「同六番」であって、「一番から四番」宛の氏名は誰か、先住権のある上告人を人員整理に藉口した制裁解雇は公序良俗に反し、原審で証書資料を審理判断すれば、上告人の解雇は当然無効と判決が結論されて、上告人の勝訴の判決がもたらされたと解される。

同右、十七、四八年七月六日付、K・ベネットの文書で『MLC従業員として有効として、苦情処理申請を受けつける』に就いて、上告人のMLC従業員として地位は何年何月何日であるのか不明瞭。

同右、十八、所長は「四つの職場」を上告人に斡旋した云々について、人事部従業員で「斡旋事務の責任者」小高和子は、法廷証言(六〇年五月一〇日)で、上告人に対する所長からの「斡旋の事実はない」「斡旋した記録はない」として所長らの主張は虚妄の言として、真実でないと証言している。原審に於て、証人尋問調書を審理判断しておれば、更に証言の相違に就いて、釈明権を行使して事実関係をより明瞭にしておれば、所長の主張は、全て虚偽の証言に類するものとして合理的に判断され、原審の判決の結果は、上告人の勝訴の判決となって上告人の解雇は無効と解される。

「K・ベネットの上告人宛の文書について被上告人国らの釈明を求めた」文書から、a項。米軍命令五〇号は「定員削減」であって、先任権のある上告人の「三級職」の「廃職する」の文言はない。MLCの解雇基準で「四名削減」されるが、氏名の選択は所長の職務権限である。所長が上告人を指名した根拠は何か。K・ベネットは「六名を解雇した」と文書にある。所長の「四名」の相違は何故か。

b項。K・ベネットは「(上告人の元上司)オノが職責として、上告人を「制裁処分」したの記述がある。所長は人員整理に籍口して、上告人を制裁指名解雇した事実がある。

c項。MLCでは人員整理実施予定地区には、他地区からの雇用は禁止されている。四七年一二月四日、他地区から解雇予定者湯原静枝(三級職)が、上告人の職場に採用され即日、四級職に昇級した。(この一二月一日に、上告人は三級職に降級されていた)。この後、一二月末以降は、MLCの改訂が行われて、右の制限は「凍結」されたと記述がある。右が事実ならば、所長が主張する上告人に「斡旋した」云々はMLC改訂後の事で違法となり、更に、所長の虚言が自ら露見して、これから所長の主張は信頼性が認められない。

d項。『課の運営上(上告人の)降級制裁処分は有効』としている。上告人への制裁処分の実行が、これにより明らかであり、所長の上告人への解雇処分を立証するものである。

結文に「第三段階申請様式(三二八EJ)を労管で入手できる」旨記述があるが、所長は、業務課谷内裕二をして、上告人への右様式の支給を拒否させて、上告人のMLC苦情申請を阻止させ、遅延させた不法行為があった。かゝる所長の行為に、原審に於て、MLC委任事務の権限を明確にする為に、更に事実の真相を見極める可きにも拘らず、不明瞭のまゝ、上告人の請求を排斥した事は裁判所のなす可き釈明権の行使処分権の行使において違法があり、原審は釈明権の行使を怠って審理不尽の違があった。釈明権が行使されておれば原審判決の結論は明かに、上告人に勝訴をもたらしたものと解される。

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